離婚に際しては、夫婦が共同生活を送るなかで形成した財産を公平に分配するため、一方が他方に対して財産の分与を請求することができる制度があります。これを「財産分与」といいます。
財産分与の対象となる資産に不動産があった場合、その価値はどのように決まるのでしょう?
この記事では、離婚される方へ、財産分与でどのように不動産を評価すべきかについてお伝えしていきます。
不動産の公正な評価について知って財産分与に備えましょう
離婚時の不動産の財産分与で争いを避けるには、評価についての当事者双方の納得感が重要です。
当事者の納得には、不動産の評価方法が決め手となりますが、評価にルールはあるのでしょうか?
財産分与での不動産の評価方法に決まりはある?
財産分与では、不動産評価のルールはなく、当事者間で合意すればどのような評価方法を用いても法的な問題はありません。
しかし、評価方法によって、不動産の評価額は変わってきます。
夫婦それぞれのこれからの生活設計に与える影響が大きい不動産について、公正な方法による評価額で財産分与を進めていくことが大切です。
公正な4つの不動産評価方法とその特徴
土地、建物には公正な評価方法が4つあり、いずれも財産分与に際しての不動産評価に用いられています。
・固定資産税の評価額による方法 ・・・土地や建物の固定資産税等を計算するときに使われる評価額を分与対象不動産の評価額とする
・路線価による方法 ・・・土地の相続税や贈与税を計算するときに使われる路線価を分与対象土地の価評価額とする
・不動産仲介業者等による査定による方法 ・・・仲介業を行う不動産業者が算出する査定額を分与対象不動産の評価額とする
・不動産鑑定士による鑑定評価額による方法 ・・・不動産鑑定士が「不動産鑑定評価基準」に基づいて評定した鑑定評価額を分与対象不動産の評価額とする
「固定資産税評価額」「路線価」は、あくまで課税を目的とするものであり、不動産の市場価値や交換価値を示すものではありません。
よってこれらの評価額を分与対象不動産の評価額とすると、その額は市場価格より低い水準となることが多いです。
「不動産仲介業者等による査定」と「不動産鑑定士による鑑定評価」によって得られた金額は、市場価値を示す価格ですが、不動産鑑定評価額が法律に基づく手順に基づいて導出されるのに対して、仲介業者査定額は各社や各営業マンの独自の見解によって算出されます。
また提示価格について、不動産鑑定士は責任を負う一方で、不動産仲介業者に責任は生じません。
次項では、4つの評価額を知るにはどうすればよいかをお話します。
不動産の公正な4つの評価額はどうしたらわかる?
固定資産税の評価額、路線価、不動産仲介業者等による査定額、不動産鑑定士による鑑定評価額を把握する方法は、以下のとおりです。
固定資産税の評価額
固定資産評価額は、毎年送付される「固定資産税納税通知書」や、市区町村への請求で取得できる「固定資産評価証明書」を確認します。
路線価
路線価は、国税庁がホームページ上で公開している「財産評価基準書 路線価図」からわかります。
不動産仲介業者等による査定額
不動産仲介業者等による査定額は、不動産会社に問い合わせ、提示を受けます。
不動産鑑定士による鑑定評価額
不動産鑑定評価額は、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼して発行される「不動産鑑定評価書」に記載されます。
離婚の財産分与で不動産鑑定を検討するメリット
4つの不動産評価方法のうち、離婚の財産分与を円滑に進めるにはどの方法がよいのでしょう?
お勧めは、「不動産鑑定士による鑑定評価」です。
不動産鑑定をするメリット
ここまで説明してきた離婚の財産分与で取りうる不動産の公正な評価方法では、不動産鑑定士による不動産鑑定だけが費用がかかります。
【参考】FRAコンサルティング 料金一覧
この点はデメリットといえますが、それでは、離婚の財産分与で不動産鑑定を検討するメリットとはなんでしょう?
・離婚による財産分与が公平かつスムーズにできる
不動産鑑定をすることは、離婚交渉をスムーズかつ公平なものとすることに役立ちます。
あちらこちらの不動産業者さんに無料査定を依頼して聞いて回るというは、精神的に負担となるものです。
そして、無料査定には明確な根拠が示されていない、各社で評価金額の幅がかなり大きく出る、ということがよくあります。
資産について支払う側と受け取る側で立場が異なるところで、そういった複数の幅がある金額を前にすると、当事者間で金額の折り合いがつかなくなって離婚交渉が長引くことになってしまいがちです。
・公的な効力がある評価なので、離婚調停・裁判で十分な根拠となる
また、離婚交渉が協議から調停、裁判へと進展していった場合でも、不動産鑑定の結果は、主張の裏付けとして安心して利用できます。
不動産鑑定士が国土交通省の定める不動産鑑定評価基準に基づき発行する「不動産鑑定評価書」は、適正価格を評価し、時価を証明する文書として、裁判所や税務署などに対して公的な効力をもちます。
不動産業者の無料査定結果では、こうはいきません。
心理的負担を減らし、ご自身の思いに沿った離婚交渉を実現するために、不動産鑑定は役立ちます。
不動産鑑定が特に有効な不動産
不動産鑑定を特にお勧めしたいケースをいくつか挙げていきます。
・大規模、個性的な不動産
特にメリットが活きるのは、事業用や賃貸用の収益物件などで、個性の強い物件や大規模な不動産を財産分与の対象とされている方です。
・複雑、特殊な不動産
借地権付物件など、複雑な不動産についても、不動産鑑定士は理論的な適正価格を算定することができますので、対象物件がどんなタイプの不動産であるかを確認して不動産鑑定評価をご検討ください。
・離婚当事者の一方が居住を継続する不動産
ご家族の居住用不動産のみが財産分与の対象であっても、ご夫婦の一方がそのまま居住を続ける場合で、禍根の残らない財産分与をお望みの場合は、不動産鑑定の利用をご検討いただきたいと思います。
もし、課税のための評価額を基準に財産分与を行うと、市場価格と乖離する場合がほとんどで、公平な財産分与とすることが難しくなります。
なお、協議離婚のために鑑定評価をご利用になる場合、鑑定結果にご夫婦のどちらかが納得できないということになると不動産鑑定のメリットが活かしきれなくなってしまいます。鑑定評価の依頼時に、当事者お二人が、鑑定結果を受け入れる旨について合意しておいていただくことが望ましいです。
公正な不動産鑑定の評価方法とは?
離婚の財産分与という重要な局面でに役立つ不動産鑑定評価について具体的に解説します。
不動産鑑定の重要性とは
不動産鑑定を行う重要性は、得られる評価額の公平性と信頼性の高さにあります。
不動産鑑定評価は、国家資格を持つ不動産鑑定士が客観的な視点で実施するものです。
「一般的要因」「地域要因」「個別的要因」という3つの観点から不動産の状況を分析し、複数の評価手法を適用します。
「なぜその価格となるのか?」について詳しく説明しながら不動産の市場価値を導出し、感情や個人の意見に左右されることない公正な評価が得られます。
不動産鑑定の評価方法にはどのようなものがある?
不動産鑑定評価では、可能な限り多くの手法を適用し、検証を重ねて評価額を決定します。主な不動産の評価方法には以下の3つがあります。
・原価法・・・その不動産の再建築などを想定した原価に、現状を反映した修正を施して評価する。
・取引事例比較法・・・類似する不動産の取引価格を参考に、取引時期や市場の動向を考慮して評価する。
・収益還元法・・・その不動産が将来生み出すと予測される収益を、現在価値に換算して評価する。
不動産鑑定を活用してスムーズな財産分与を実現
不動産鑑定評価を得るにはどうしたらいいのでしょう? 手順と注意点についてみていきます。
不動産鑑定の手続きと流れ
まず不動産鑑定会社へ、ウェブフォームや電話などで問い合わせをしましょう。
不動産価値についての具体的なアドバイスを希望する場合は、最低限の物件情報(不動産の所在地や登記事項など)を伝える必要があります。
不動産鑑定士は、物件資料の確認と、ヒアリング内容をもとに、いまの状況や問題点の整理をします。
そのあと評価の方法や、予想される評価額の水準、費用見積り、納期について不動産鑑定士から提示があります。
この段階までは、通常、費用は発生せず無料です。
評価の方向性や費用に納得ができたら、正式に鑑定評価の申し込みをします。
作業スケジュールや書面の発行部数など評価進行についての打ち合わせを済ませたら対象不動産の鑑定評価作業開始です。
不動産鑑定評価書が出来上がったら、内容について不動産鑑定士から説明を受け、わかりにくい点があれば質問します。
裏付けある不動産価格を鑑定評価によって得るまでの流れは以上です。
不動産鑑定を活用する際の注意点
・信頼できる不動産鑑定士を選ぶ
不動産鑑定士による不動産の鑑定評価は、国土交通省が定めた「不動産鑑定評価基準」に基づいて行われます。
しかし、複数の有資格者が同じ不動産について鑑定評価を実施したとしても、鑑定評価額が一致することはほぼありません。
評価の過程にはさまざまな価値判断が入るからです。そのため、実績や経験が豊かで公正な評価を行う能力が高い、信頼できる不動産鑑定士を選ぶことが大切です。
・鑑定費用と納期を明確にする
鑑定評価にかかる費用や納品スケジュールを事前に明確にすることが重要です。
料金体系や支払い方法、作業完了までの予定期間などを確認し、納得した上で依頼しましょう。
・なるべく多くの情報を提供する
不動産はひとつとして同じものがなく、個別の事情によって価格がときに大きく変動します。
物件に関する補足情報や評価についての要望を、評価作業前に不動産鑑定士に提供しておくと評価の精度が向上します。
特に、建物の改修歴や近隣環境などの過去・現在・将来の情報は、評価額に影響を与えるので適正な評価額の算定に重要です。
以上の3点のなかでは「信頼できる不動産鑑定士を選ぶ」ことが最も重要となります。
次項でそのためのポイントについて説明をします。
信頼できる不動産鑑定士を選ぶポイント
不動産鑑定士を選ぶときには、信頼関係が築けるかを重視することが肝要です。
適切な鑑定士を選ぶことが離婚の財産分与の成功につながります。
実績や評判に焦点をあてた選び方のポイントを見ていきましょう。
資格と実績がある鑑定士を選ぶ
資格と実績を持つ鑑定士を選ぶためには、以下の手順を踏むことが役立ちます。
・資格の確認
不動産鑑定士の資格をいつ取得・登録したのかが、会社案内などに記されていることがあります。
登録年を確認することで、不動産鑑定士としてのキャリアの長短を確認することができます。
また、不動産鑑定士以外の資格(たとえば、宅地建物取引士や税理士)を有している場合、主たる業務が不動産鑑定業であるかどうかも確認しましょう。
・経験と実績の確認
ホームページ等より、過去どのような案件に携わり、どれだけの経験を積んできたかを確認することが重要です。
評価を依頼したい物件と同じようなケースについて実績が十分にあることが望ましいです。
国土交通省地価公示鑑定評価員といった、公的な評価の受注歴も信頼性の指標となります。
・無料相談の利用
無料相談を活用して、鑑定士との相性や説明のわかりやすさを確認しましょう。
離婚による財産分与の不動産鑑定評価では機微に触れる情報を提供する場合もあるため、特に実際に接してみての印象を大切にすることをお勧めします。
口コミや評判を参考に選ぶ
・インターネット検索
多くの不動産鑑定事務所が自社のホームページを開設しています。
インターネット検索で見つけた条件にあって印象が良い不動産鑑定事務所に所属する不動産鑑定士について、口コミや評判を確認しましょう。
ネット上に口コミが十分にない場合は、ブログ記事を読むことで、人となりがわかることもあります。
・業界団体の情報
不動産鑑定士の多くが、都道府県の不動産鑑定士協会に所属しています。
「都道府県名+不動産鑑定士協会」で協会を探しましょう。鑑定士のプロフィールや資格、業務実績などが公開されていることがあります。
・知人、友人、税理士等からの紹介
不動産を多く所有している知人・友人は、不動産鑑定士とつながりがあるかもしれません。
とくに不動産相続を経験していると、不動産鑑定評価の依頼経験がある可能性が高まります。
不動産鑑定評価を経験している方々の意見は参考になります。
また、税理士や弁護士は業務上、不動産鑑定士と関わる機会があるので、顧問税理士等がいる方は、紹介可能な不動産鑑定士がいないか聞いてみるのもよいでしょう。
まとめ
離婚時に不動産が財産分与の対象となる場合、その評価や分与方法を巡って大きな争いになることがあります。
不動産の評価額は、離婚する夫と妻が合意する金額であれば良い、ということになっていますが、評価方法が公正でないと、双方が金額に納得することは難しくなります。
不動産には「固定資産税評価額」「路線価」「不動産仲介業者等による査定額」「不動産鑑定士による鑑定評価額」という公正な4つの評価額があります。最も公平で公的にも有効となるのは「不動産鑑定士による鑑定評価額」です。
口コミや評判を参考に、信頼できる不動産鑑定士と出会い、離婚時の不動産財産分与に不動産鑑定評価をお役立てください。
弊社FRAコンサルティングでも財産分与のための不動産時価評価のご依頼を長年承ってまいりました。
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