立退料
こんにちは! FRAコンサルティングの不動産鑑定士・伊藤由美子です。
ブログシリーズ「Cさんのストーリー」で老朽店舗の立退料についてお伝えしてきましたが、新シリーズは、意に反して立退き請求を受けたD社のストーリーを用いて、事務所の立退料のケースをご紹介したいと思います。
D社へ舞台を移す前に、ここで「立退料」とは何か、について改めて確認しておきましょう。
「立退料」とは、オーナー側の事情等で、賃貸借契約が結ばれている土地や建物をテナントから明渡してもらう必要がある場合に、オーナーからテナントに対して支払われる金銭です。
「立退料」の内容は、次の3つに大別することができます。
①立退きによってテナントが支払わなければならない移転費用の補償
②立退きによってテナントが事実上失う利益の補償(いわゆる居住権、営業権)
③立退きにより消滅する利益権の補償(いわゆる借地権・借家権)
以上のうち①②は、「通損補償」、③は「権利補償」と呼ばれて区分されます。
①~③の具体的な内容は以下のとおりです。
①テナントが支払わなければならない移転費用の補償
-引越しにかかる費用(梱包、運送、保険、分解取付調整、住所変更諸届、移転通知費用等)
-移転先取得のために支払いを要する費用(敷金、権利金、保証金、仲介料等)
-従前賃料から移転先において増加した賃料差額 など
②テナントが事実上失う利益の補償(居住権・営業権)
-居住権の補償…ただし、この権利は精神的な要素を含むため、一定の算定式により金額を出すことは一般に困難。
-営業権の補償…算定可能(移転先で従前営業と同一内容の設備で営業開始するための費用、休業期間中の損失、新規営業による減収分の補償 等)
③消滅する利益権の補償(借地権・借家権)
-鑑定評価手法等を用いて算定。
<参考資料>大野喜久之輔・ 仲肥照暁・嶋田幸弘『転換期にある借地権・借家権の評価と補償』住宅新報社、2011年
以前のブログで書きましたように、オーナーとテナントが、賃貸借中の不動産について抱える事情は様々です。
その事情を十分に聴取・分析して、上記①~③の内容と照らし合わせ、適正な金額を求めていくのが立退料の評価です。
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不動産鑑定士・伊藤由美子です。
テナントに立退料を支払って老朽店舗を建て替えることになった、Cさんのストーリーの続きです。
【 立退料の決定 】
不動産鑑定士による「立退き請求に相応する補償額・意見書」の説明が終わりました。
立退料を構成している、借家権価格、営業廃止の補償、いずれも細やかに積み上げ計算がなされており、その合計額として求められた立退料の金額はオーナーの私としては納得のいくものでした。
借り主の方からも、大きな異論はでませんでした。
ただ、従業員への退職手当、雑費について、若干調整して欲しいと要望がありました。
鑑定士から「この意見書通りの金額で、立退料としなければならないわけではありません」と言われ、当事者で協議をした結果、意見書で提示された金額の端数を切り上げ処理した額をもって、今回の立退料と決めることとし、追って覚書を作ることになりました。
私と借り主のみで大雑把に金額交渉をしていたとしたら、このようにスムーズに結論へと至ることはできなかった、また、合意はしても何かしらの禍根が残っただろう、と思います。
営業の最後は桜の頃。店主、オーナーそれぞれ有終の美を飾る仕事ができたあとには、私たちにとって思い出深い建物で、美味しいお酒を酌み交わします!
<この項終わり>
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【 営業廃止の補償:⑤雑費の補償 】
~雑費の補償とは、何ですか?~
これ以前の項目に計上していない、細々した項目についての補償です。
常連客への営業廃止の通知費用、官公庁・大阪市・警察署・消防署・飲食業協会などへの届出諸費用、未使用印刷物や名刺、スタンプ等の廃棄損、閉店イベント費用などを、ここに含めました。
<次回に続く>
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【 営業廃止の補償:④営業廃止補償 】
~営業廃止補償とは、何ですか?~
営業の廃止時に発生する様々な費用の補償がこの項目に含まれます。
本件では、飲食店経営の実態に照らして、営業廃止で不要となる営業用固定資産(設備・器具・備品等)の処分の際に生ずる損失、各種の契約解除等に伴う違約金・損失、解雇する従業員に対する退職手当などを中心に、計上しました。
<次回に続く>
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【 営業廃止の補償:③借家人補償 】
~借家人補償とは、何ですか?~
借家人補償とは、借り主が他の建物を賃借するために必要となる費用を補償するものです。
今回は営業が廃止されるため、他の建物を賃借し、居酒屋営業を継続することはありませんが、他の建物を新たに賃借する必要がないからといって借家人補償は不要であるというものでもなく、立退きを余儀なくされるのですから、相応の借家人への補償は必要です。
本件については、立退き請求を受けることにより顕在化する「借家権価格」を別に計上しています。
これに借家人補償が含まれているものと考えます。
<次回に続く>
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【 営業廃止の補償:②動産移転補償 】
~動産移転補償とは、何ですか?~
店舗備品や什器などの動産を移転するには費用がかかります。
先日の店舗内調査の結果、本件の備品・什器の移転には2tトラックで延べ2台相当が必要と考え、大阪市内の引越業者へのヒアリングに基づき、簡易梱包料込みの費用を見積りました。
これが、動産移転補償です。
<次回に続く>
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【 営業廃止の補償:①工作物等の補償 】
~工作物等の補償とは、何ですか?~
建物とその附帯設備は、借り主の方の所有物ではないため、補償の対象とはなりません。
しかし、借り主の方の支出による器具、備品などのうち、営業を廃止したあと搬出を要するものについて、搬出に伴い生ずる減損分(再利用ができない等)は補償の必要があります。
これが、工作物等の補償です。
<次回に続く>
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【 営業廃止の補償 】
~営業廃止の補償は、何だか込み入ってそうですが…~
現在営業中の店舗が立退きを余儀なくされる場合には、営業ができなくなる等の、様々な営業上の損失が発生します。
この損失は補償されなければなりません。
営業上の損失についての補償額算定は、
●公共用地の取得に伴う損失補償基準
の考え方を援用します。
国土交通省が定めた基準です。
この基準では、営業上の損失補償に関し、
(1)営業休止(移転)等の補償、(2)営業廃止の補償、(3)営業規模縮小の補償
の3つの補償対象及び補償基準が規定されています。
ご依頼の内容には、(2)営業廃止の補償 があてはまりますから、該当基準をもとに、算定を行いました。
<次回に続く>
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【 借家権価格 】
~借家権の価格の算定は、以下のように行ったそうです~
1.店舗の建つ敷地の土地価格を求める。
2.店舗の建物価格を求める。
3.土地価格についての借地権(※1)割合を求める。
4.土地価格×借地権割合で、借地権価格を求める。
5.借地権価格についての借家権(※2)割合=α、建物価格についての借家権割合=β、を求める。
6.借地権価格×α+建物価格×β を求め、必要な修正を行って、借家権価格を算定する。
これは、
●権利割合方式
という手法です。
この手法は公的機関による公共用地の取得に伴う損失補償や、市街地再開発事業、民間の共同ビル事業など、広く使われています。
※1 「借地権」とは、借地借家法に基づく建物の所有を目的とする地上権または賃借権のこと。
※2 「借家権」とは、借地借家法が適用される建物の賃借権のこと。
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【 立退料の構成要素 】
~不動産鑑定士は、まず、私たちのケースでの立退料の構成要素について話しました~
今回の「立退料」、すなわち「立退き請求に相応する補償額」は大きく2つの要素から構成されます。
借家権価格 + 営業廃止の補償 です。
借家権の価格とは、建物の借り主の社会的、経済的あるいは法律的な利益のことで、立退きで事実上失うことになる利益、を金額で示したものです。
そして営業廃止の補償は、①工作物等の補償 ②動産移転補償 ③借家人補償 ④営業廃止補償 ⑤雑費の補償 の各項目について実情を踏まえて積み上げ計算して求めます。
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