2018/11/16
不動産鑑定士・降矢等です。
夏の始めに「土砂災害の3分類&危険を見分ける4つのステップ。そして危険の取り扱いについて。」とのタイトルで記事を書きましたが、その後、夏~秋にかけて、豪雨や地震といった大きな災害が全国で相次ぎました
東京都内、それも23区内であっても 3種類の土砂災害(がけ崩れ、土石流、地滑り)のうち、がけ崩れが発生するおそれのある場所が数多くあります。
今年に入って東京都は新たに数百ヵ所の土砂災害(特別)警戒区域を指定しています。
本日は、土砂災害についての前回記事の続編として、土砂災害(特別)警戒区域の指定がなされた場合、それを不動産鑑定評価にどう反映するかについて、評価上のポイントをお示しした上でモデルケースを用いてご説明をいたします。
「土砂災害の3分類&危険を見分ける4つのステップ。そして危険の取り扱いについて。」をご一読の上、以下をお読みください。
1.土砂災害防止法「土砂災害(特別)警戒区域」の指定と不動産鑑定評価
まず、不動産鑑定評価での「土砂災害(特別)警戒区域」を含む土地評価について原則的考え方をお話します。
1-1. 「土砂災害警戒区域」「土砂災害特別警戒区域」の違い
『土砂災害防止法』は、土砂災害のおそれのある箇所を明らかにして、住宅などが新しく建てられることを抑制し、警戒や避難の体制を整備するといったソフト対策を推進することを目的として制定された法律です。
この法律で規定する「土砂災害警戒区域」(イエローゾーン)は、土砂災害が発生した場合、住民の生命・身体に危害が生ずるおそれがある土地の区域で、災害情報の伝達や避難が早くできるように区市町村により整備が図られます。
「土砂災害特別警戒区域」(レッドゾーン)は、イエローゾーンのうち、建築物に損壊が生じ、住民の生命・身体に著しい危害が生ずるおそれがある土地の区域で、一定の開発行為の制限や居室を有する建築物の構造規制が義務づけられます。
1-2. 土地について「警戒区域」「特別警戒区域」の指定がされていることは”マイナスの個性”か?
①警戒区域(イエローゾーン) ・・・”マイナスの個性”ではない
「警戒区域」は、土砂災害の発生に備えて避難体制整備が必要な区域、として指定されています。
したがって、もともと急傾斜のがけ地に近い一帯の土地については、この地域的特性を考慮の上で価格が形成され、不動産取引されています。
言いかえると、地域相場に「警戒区域」該当の事情がすでに織り込まれていることになります。
ですから個々の土地の評価の際にあらためて「警戒区域」指定の事実をマイナスの個性として取り上げて反映(減価)することはしません。
なお、「警戒区域」指定は購入検討者にネガティブな印象を与えるかもしれないので価値のマイナス要因…というご意見もあるかと思います。
しかしこの事実をどの程度ネガティブに捉えるかというのは人それぞれに様々ですので、鑑定評価で減価項目には入れません。
同じネガティブ印象につながり得る事実でも、自殺のあった土地のように明らかに瑕疵ある事情とは区別をします。
②特別警戒区域(レッドゾーン) ・・・”マイナスの個性”となる
「特別警戒区域」に指定された土地部分は、土砂災害が発生した場合に、建築物に損壊が生じ、住民の生命・身体に著しい危害が生ずるおそれがある土地の区域、で災害発生時に被害を受ける蓋然性が高いです。
そのため、万が一がけ崩れが発生した場合に土石に耐える建築構造とすることなど、その土地の利用に際して具体的(費用支出を含む)制約が発生します。
よって、「特別警戒区域」の指定はその土地についてマイナスの個性と言え、土地価格について減価の検討が必要となります。
1-3. 「特別警戒区域」の指定がある土地のマイナスの個性のとらえ方
「特別警戒区域」について、発生が予測される土石流等に対して建物が押しつぶされないための具体的な構造基準は、建築基準法に基づく政令で以下のように定められています。
①基礎
・基礎と一体の控え壁を有する鉄筋コンクリート造の壁
②構造耐力上の主要な部分
・崩壊土砂の衝撃を受ける高さ以下にある構造耐力上主要な部分は、鉄筋コンクリート造とすること
③外壁の構造
・急傾斜地に面する外壁は,崩壊土砂の衝撃を受ける高さ以下の部分を鉄筋コンクリート造の耐力壁とすること
・この場合において,当該外壁に作用する衝撃力の強さに応じ,外壁の厚さや鉄筋の配置を定められたものにすること
④適用の除外
・国土交通大臣が定める方法による構造計算によって崩壊土砂の衝撃に対して安全であることが確かめられた場合
・急傾斜地と建築物の間の位置に鉄筋コンクリート造のへいを設置する場合
・その他国土交通大臣が定める安全上適切な措置を講ずる場合
「特別警戒区域」内では、上記規定に則り、通常の建築物以上の耐力性ある構造としなければならない分、建築費がよりかかります。
この建築費等の増額支出相当などが、指定のない土地に比べたマイナスの個性を金額換算したもの(土地の価値減少分)にあたると考えられます
ここで注意しなければならないのは、下図のように画地全体に対し、指定を受けた土地がどの程度を占めているかという点です。
その状況に応じて合法的な建物の配置や構造が大きく異なってきますので、土地価格の減少の程度も当然に幅が生じます。
たとえば、Aの指定区域のケースでは、指定外の土地が大方を占めています。
となると、建物の配置を工夫すれば門、塀等の構造強化で対応可能な場合があります。
一方、Bのように画地の過半が指定区域となっているケースでは、建物自体の構造強化が求められます。
よって建築費が相対的に高くなる分、土地価格により大きな減価が生じます。
2.評価モデルケース:土地の一部が「特別警戒区域」に指定されていた場合の減価率の算定
次に、1.で指摘した事項について、過去の評価事例を元にしたモデルケースに数値を入れてご説明します。
2-1. ケース設定
23区内にある住宅街の45㎡の更地。
前面道路を隔ててがけ地あり。
土地のうち前面道路と接する2㎡(長さ5m、幅40㎝)は「特別警戒区域」に該当し、その部分以外は「警戒区域」に該当する、前記1.1-3.にあげた図で、Aのようなケース。
「特別警戒区域」の指定がない場合のこの土地価格は5,000万円
2-2. 法令への対応
本件では、建物自体の構造強化より、前面道路側(がけ地と建物の間)鉄筋コンクリート造のへい(耐力性ある強化塀)の設置が妥当と判断。
2-3. 減価率の算定
強化塀の設置の費用は120万円と算定。
120万円(設置費)÷5,000万円(土地価格 )= ▲2.4%(①)
設置する塀により1階部分の日照・通風に影響が生じることとなる。
その分市場性の減退が生じるので、この市場性減価について▲5%(②) と査定。
①と②を掛け合わせ(相乗積)、「特別警戒区域」に指定されたことによる減価率を次のとおり算定。
1 - {(1-0.024)×(1-0.05)} ≒ ▲7.3%
2-4. 減価率の妥当性の検証
東京都主税局は固定資産税(土地)の評価において、以下の画地補正率(各土地の状況に応じた補正率)を採用している。
付表20「土砂災害特別警戒区域補正率」
土砂災害防止法により土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)に指定された宅地については、同法により特定開発行為の制限、建築物の構造規制等が行われることを考慮し、補正を行うものです。
なお、土砂災害警戒区域(イエローゾーン)は、レッドゾーンにおいて生じる制限等がないため、補正の対象外としています。
モデルケースの場合、2㎡÷45㎡≒0.04であるから、上記表にあてはめると減価率は0%となるが、これを一つの目安とした上で、費用性と快適性の両面から算定した減価率▲7.3%が対象土地において鑑定評価上は妥当であると検証・確認した。
土砂災害(特別)警戒区域の指定がある土地について、鑑定評価で用いる具体的手法(減価率の求め方)ついて書きました。
ご参考としていただけましたら幸いです。
記事内のモデルケースはあくまで一例です。
個別土地の土砂災害リスクを反映した価格評価につきましては、お問い合わせフォームまたは、お電話(03-3626-5160)にてお気軽にご相談ください。