2020/01/28
降矢等です。
本日は、不動産相続に備えてご依頼をいただいた鑑定評価事例をご紹介します。
対象物件は東京西部の閑静な住宅街にある戸建住宅で、土地が借地の「借地権付建物」でした。
ご依頼者はこの住宅にお住まいの方です。
借地権付建物の所有者は高齢のご親戚で、将来相続が発生する前にご依頼者がご親戚より借地権付建物をご購入することになりました。
親族間の不動産取引は、第三者との取引よりも恣意的になりやすいことから、税務上、時価(=不特定多数の当事者間で自由な取引が行なわれる場合に通常成立すると認められる価格)にて行わなければならないとされています。
適正な時価に基づく取引であるとの税務当局への証明には、鑑定評価額での売買とすることが有効です。
また、こちらの物件は土地部分が所有権ではなく借地権であるという特殊性もあります。
そこで、借地権付建物としての適正な時価を示す不動産鑑定評価書の作成を弊社にご依頼いただいた次第です。
借地権付建物の鑑定評価手法には、
・原価法
・取引事例比較法
・収益還元法 という3つの手法の適用が考えられます。
取引事例比較法は、近隣あるいは不動産取引上の市場を同じくすると考えられる(=代替競争関係にある)地域における近時の借地権付建物の売買事例を集め、それらの比較検討によって本物件の価格を導出する手法ですが、手法の適用に必要な借地契約の熟成の程度やその残存期間、一時金の授受の有無およびその額、賃料改定の経緯や契約更新可能性などの契約個別性等について正確かつ詳細に把握することができる多数の事例を収集し得なかったため適用を見送り、原価法と収益還元法の2手法を適用しました。
原価法は、評価時点での「借地権の価格+建物の価格」で本件住宅の価格を算定する手法です。
収益還元法は、評価時点でこの住宅を第三者に賃貸したときに得られる収益を基に価格を導く手法です。
前者は費用性、後者は収益性から不動産の価値にアプローチする手法で、異なる複数の視点より不動産価値を見るという点に意義がありますが、一般の個人住宅については、これを賃貸して収益を上げたいという不動産購入者(投資家)が現れることはほとんどありません。
評価の結果、原価法による価格に対して収益還元法による価格は65%ほどの水準となりました。
求められた2つの価格に、地域性や個別性、手法の適用過程で用いた資料の信頼性などについて再度の分析を加え、最終的により説得力の高い原価法による価格を重視して鑑定評価額を決定しました。
この鑑定評価書の発行によって、ご親族一同から相続対策としての売買についてご納得を得られ、また税務対応もスムーズに進めていただくことができました。
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不動産鑑定士による「不動産鑑定評価」と「鑑定評価ではない不動産評価」
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