2026/07/09

令和8年(2026年)7月1日、国税庁が令和8年分の相続税路線価を公表しました。
土地価格に関する公的発表は各種ありますが、市街地の道路ひとつひとつに付けられる路線価は、不動産所有者、特に相続を控える方にとって気になる情報です。
この記事では、路線価の基本的な位置付けや仕組みから、令和8年分の公表内容、路線価図の読み方、相続税評価額の基本的な計算方法まで、不動産鑑定士の視点でわかりやすく解説します。
監修:降矢 等(不動産鑑定士)
執筆:伊藤 由美子(不動産鑑定士)
目次
相続税路線価とは
相続税路線価は、一般に「路線価」と呼ばれることが多いですが、正式には「相続税路線価」と言います。
路線価は、ある道路(路線)に面する標準的な宅地が1㎡あたりいくらかを定めた価額で、相続税や贈与税を算定する際の基準として使われます。
路線価を定めるのは各国税局長です。地価公示価格や売買実例価額、不動産鑑定士による鑑定評価額などを参考に、地価公示価格のおおむね80%程度になるように評定されています。
なお、全国すべての道路に路線価が設定されているわけではありません。市街地以外では「倍率方式」と呼ばれる評価方法が採用されている地域もあります。
路線価の基本事項については、以前の記事「これだけ知っておけばOK!「路線価」のポイント&活用法」で簡潔にまとめてありますので、概要把握にお役立てください。
路線価と他の「土地の価格」との違い(一物四価)

土地の「一物四価(いちぶつよんか)」という言葉を耳にされたことがおありでしょうか?
「ひとつの土地について4つの価格がある」という意味で、相続税路線価はその1つです。
- 実勢価格(時価):売り手と買い手の間で実際に売買が成立する価格
- 公示価格:国土交通省が公表する公共事業の用地取得など土地取引の指標となる価格
- 相続税路線価:国税局長が定める相続税・贈与税の計算に使う価格
- 固定資産税路線価:市町村(東京23区は東京都)が定める固定資産税や不動産取得税などの計算に使う価格
このうち相続税路線価は先述のとおり公示価格のおおむね80%程度、固定資産税路線価は公示価格のおおむね70%程度が目安とされています。
なお、実勢価格(時価)の評定を専門業務とするのは、不動産鑑定士です。
同じ土地でも「何のための価格か」によって認められる価格水準が異なってきます。
一物四価のモデルケースを、別記事「やさしくわかる!土地の「一物四価」」にて挙げております。
一物四価については、「不動産を売却しない前提で行う遺産分割協議」の場面で特に注意が必要です。相続人全員の合意があれば不動産の評価方法は自由に選べます。相続対象土地をどの基準で評価するか、全員の納得のもとに決めていくことが大切です。
路線価はいつ・どのように公表される?
路線価は、毎年7月1日(休日の場合は翌開庁日)に、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」というページで公表されます。令和8年分についても、予定どおり令和8年7月1日(水)に公開されました。
ここで評価される価格の時点は、その年の1月1日です。つまり令和8年分の路線価は、令和8年1月1日時点の地価水準をもとに算定されたものであり、令和8年1月1日から12月31日までに発生した相続・遺贈・贈与について適用されます。
「同じ1月1日が価格時点の地価公示は3月下旬に公表されるのに、なぜ路線価は7月まで待たないといけないのか」という疑問を持たれる方がいらっしゃいますが、これは国税局が地価公示価格などのデータを踏まえて評価作業を行うための、実務上のスケジュールによるものです。
このタイムラグが生まれる理由や、実際の業務フローについては「相続税路線価:なぜ、発表が7月1日(と遅くなるの)か?」で詳しく取り上げていますので、気になる方はこちらもご覧ください。
【最新・令和8年分】路線価の公表内容にみる地価動向

令和8年分の路線価では、全国的に地価の上昇傾向がはっきりと表れました。国税庁の発表によれば、標準宅地の評価基準額は全国平均で前年比2.9%の上昇となり、5年連続の上昇です。
都道府県庁所在地の最高路線価が上昇した都市は44都市(前年は35都市)にのぼり、横ばいだったのは3都市、下落した都市は1つもありませんでした。下落都市がゼロになったのは、実に35年ぶりです。
全国で最も路線価が高かった地点は、例年どおり「東京都中央区銀座5丁目銀座中央通り」(鳩居堂前)で、昭和61年分以降41年連続でトップを維持しています。1㎡あたりの価額は5,336万円で、前年比11.0%の上昇となりました。
こうした上昇傾向は、インバウンド需要の回復や都市部の再開発、金利動向などを背景とする地価公示価格の動きが、路線価にも反映された結果と考えられます。
路線価が上がるということは、それだけ相続税の評価額も上がりやすくなるということです。「相続税はかからないと思う」という方も、一度ご自身の資産状況を見直しておくことをおすすめします。
路線価図の調べ方と見方

出典:路線価図の説明(国税庁)
路線価は、国税庁「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」でいつでも無料で調べることができます。調べ方の手順は次のとおりです。
- 国税庁「財産評価基準書」サイトを開く
- 調べたい年分(令和8年分など)を選択する
- 都道府県を選び、続けて市区町村・地域を選ぶ
- 該当エリアの「路線価図」または「評価倍率表」を表示する
- 対象の道路に記載されている数字(千円単位)とアルファベット記号を確認する
路線価図に表示されている数字の後ろについているアルファベット(A〜G)は「借地権割合」を示す記号で、賃借権付きの土地などを評価する際に使われます。また、路線価は一定のルールに基づいて端数処理が行われています。
借地権割合の記号の見方や路線価として表示される数字の端数処理のルールについては、「「相続税路線価」端数についての豆知識」で詳しく解説していますので、あわせてご確認ください。
なお、すべての土地に路線価が定められているわけではありません。市街化があまり進んでいない郊外・農村部・山間部などは「倍率地域」とされ、路線価ではなく「評価倍率表」を用いて評価します。
国税庁では、従来から、どの地域を路線価地域又は倍率地域とするかについて、それぞれの地域の実情を的確に把握しながら、納税者の利便性や予算の効率的な執行の観点も踏まえ不断の見直しを行い、倍率地域への移行や路線価地域の新規設定を進め、評価の最適化に取り組んでいます。
(参考)路線価地域と倍率地域の区分の基本的な考え方
原則として、市街地的形態を形成する地域については、路線ごとに地価変動が異なる蓋然性があることから「路線価地域」とし、それ以外の地域については、そのような蓋然性がないことから「倍率地域」としています。
路線価を使った相続税評価額の計算方法
路線価地域にある宅地の評価額は、基本的に次の式で計算します。
評価額 = 路線価 × 土地の面積(㎡)
例えば、路線価が「400」(1㎡当たり40万円)、土地の面積が200㎡であれば、
40万円 × 200㎡ = 8,000万円 となります。
ただし、実際の土地は形が不整形であったり、道路からの奥行きが極端に長い・短いといったケースも多く、その場合は「奥行価格補正率」や「不整形地補正率」などの各種補正を加えて評価額を調整します。角地や二方向以上の道路に接している土地は、加算補正が入ることもあります。
一方、路線価が定められていない倍率地域にある土地は、次の式で評価します。
評価額 = 固定資産税評価額 × 評価倍率
評価倍率は地域・地目(宅地・田・畑・山林など)ごとに国税庁の評価倍率表で定められており、固定資産税評価額は毎年春に市区町村から送付される固定資産税の課税明細書で確認できます。
被相続人が住んでいた自宅の土地などについては、「小規模宅地等の特例」という評価額が最大80%減額される制度があります。この特例は要件が細かく、遺産分割の方法によっては適用できなくなることもあるため、該当しそうな方は早めに専門家へ相談することをおすすめします。
相続税の申告ではどの年分の路線価を使う?
相続税の申告で土地を評価する際は、原則として「相続が開始した日(被相続人が亡くなった日)の属する年」の路線価を使用します。たとえば令和8年中に発生した相続であれば、令和8年分の路線価を用いて評価額を計算します。
ここで実務上よく問題になるのが、年始(1月〜6月)に相続が発生したケースです。路線価はその年の7月1日にならないと公表されないため、相続税の申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)との兼ね合いで、路線価の公表を待たずに準備を進めなければならない場合があります。
こうしたケースについて「相続税路線価:申告に利用する路線価の年度は?」の記事で例を挙げて解説しておりますので、年始に相続が発生した方はぜひ参考にしてください。
路線価が上がると相続税はどう変わる? 生前対策の視点

路線価が上昇するということは、それだけ土地の相続税評価額も上昇するということを意味します。評価額が上がれば、当然ながら相続税の負担も重くなります。
かつて相続税は「一部の資産家だけが対象」というイメージがありましたが、基礎控除額が縮小された近年の税制改正と、地価上昇が重なったことで、都市部に一般的な戸建てやマンションを所有しているだけでも相続税がかかるケースが増えています。「親は特に資産家というわけではないから大丈夫」と思っていた方が、実際に試算してみると基礎控除を超えていた、という状況は決して珍しくありません。
路線価は生前贈与を検討する際にも重要な指標です。土地の生前贈与を考えている場合は、贈与税の計算にもその年の路線価が使われるため、路線価の動向を踏まえたタイミングの検討が有効です。
地価の上昇局面では、保有する不動産が現状どの程度の評価額になるのか、早めに把握しておくことが一層大切になります。ご自身による不動産の資産状況把握が難しい場合は、相続税評価を専門とする税理士や不動産時価評価を専門とする不動産鑑定士のサポートをご活用ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 路線価は無料で見られますか?
A. はい。国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」サイトで、どなたでも無料で確認できます。
Q. 過去の年分の路線価も確認できますか?
A. はい。国税庁のサイトでは、過去複数年分の路線価図・評価倍率表が公開されています。過去に発生した相続の申告などで、当時の年分の路線価を確認したい場合にも利用できます。
Q. 路線価が定められていない土地はどう評価すればよいですか?
A. 路線価が定められていない「倍率地域」にある土地は、固定資産税評価額に国税庁が定める評価倍率を乗じて評価します。
Q. 路線価だけで相続税評価額は分かりますか?
A. 路線価は評価の基準となりますが、それだけでは正確な評価額は分かりません。土地の形状や接道状況、利用状況などによって補正が行われるためです。
Q. 相続税評価と不動産鑑定評価は同じですか?
A. いいえ。相続税評価は相続税法や財産評価基本通達に基づいて行われる税務上の評価です。
一方、不動産鑑定評価は、不動産鑑定評価基準に基づき、不動産鑑定士が市場価値を判定する評価であり、目的や考え方が異なります。
まとめ

相続税路線価は、相続税・贈与税における土地評価の基準となる、重要な価格です。毎年7月1日に国税庁から公表され、その年の1月1日時点の地価を反映しています。令和8年分は全国平均で2.9%上昇と、5年連続の上昇率となり、相続税の負担にも影響を与える可能性があります。
路線価図の読み方や評価額の計算方法を押さえておくことは、ご自身の資産状況を把握し、必要な対策を早めに検討するための第一歩となります。資産状況の把握や相続対策については、専門家のサポートを受けることが可能です。
「路線価を面積に乗じた評価額を高く感じる。実際の土地の状況からするともう少し低い可能性があるように思う」「遺産分割協議のために、正確な時価を鑑定してほしい」といったご相談がございましたら、お気軽に弊社までお問い合わせください。
