不動産鑑定士・降矢等です。

このたびの記録的豪雨で被害を受けた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

暑さの中、復旧作業にあたられる方々のご様子に、ただ頭が下がるばかりです。

 

河川の氾濫による浸水や土砂災害で、多くの貴い命が失われてしまいました。

土砂災害とその危険について、私たちがより理解を深めることが重要だと痛切に感じております。

土砂災害について、土砂災害リスクを知る方法、加えて不動産取引・不動産鑑定での土砂災害リスクの取り扱いについて、今日は書いてまいります。

 

なお、以下に掲載した写真・図表は「土砂災害防止法の概要」(国土交通省) を加工して作成しております。

 

 

 1.土砂災害の3分類 :「がけ崩れ」「土石流」「地滑り」

 

国土交通省の調査によれば、全国で、毎年1,000件を超える土砂災害が発生しており、土砂災害が発生するおそれのある区域は約66万区域にのぼると推計されています。

 

土砂災害は、3種類に分類されます。

 

1-1. がけ崩れ

がけ崩れ

 

自然にあるいは人工的につくられた斜面の表面の土砂や岩石が、速いスピードで滑り落ちる現象。
 

突然起きるため、家の近くで起きると逃げ遅れる人が多く出て死者の割合も高くなる。

 

 

 

1-2. 土石流

土石流

山崩れによって生じた土砂や岩石と谷底にたまった土砂や岩石とが川の水と一体となって、速いスピードで流れ下る現象。
 

流れの速さは規模によって異なるが、時速20~40kmで一瞬のうちに人家や畑などを壊滅させてしまう。

 

過去、推定時速が100kmを超えたこともあった。

 

 

1-3. 地滑り

地滑り

 

斜面の一部あるいは全部である土塊が地下水の影響と重力によってゆっくりと斜面下方に移動する現象。
 

一般に移動する土塊の量が多いため、甚大な被害が生じる。また、一度動き出すとこれを完全に停止させることは困難

 

 

 

 

いずれについても長雨集中豪雨地震が発生の重大原因です。

 

 

2.土砂災害の危険を見分けるための4つのステップ

 

土砂災害の危険は、2.1~2.4の4つのステップで見分けてください。
 

2-1. 「土砂災害警戒区域」「土砂災害特別警戒区域」(土砂災害防止法)ではないか

 

 2001年4月土砂災害防止法が施行されました。

1999年6月に、広島市・呉市を中心とした集中豪雨により大規模な土砂災害が発生したことをきっかけに、土砂災害のおそれのある箇所を明らかにして、住宅などが新しく建てられることを抑制し、警戒や避難の体制を整備するといったソフト対策を推進することを目的として制定された法律です。

 

この法律で規定する「土砂災害警戒区域」(イエローゾーン)は、土砂災害が発生した場合、住民の生命・身体に危害が生ずるおそれがある土地の区域であり、災害情報の伝達避難が早くできるように区市町村により整備が図られます。

 

土砂災害特別警戒区域」(レッドゾーン)は、イエローゾーンのうち、建築物に損壊が生じ、住民の生命・身体に著しい危害が生ずるおそれがある土地の区域であり、一定の開発行為の制限居室を有する建築物の構造規制が義務づけられます。

 

 

まず都道府県は基礎調査を行い、調査結果を各区域の指定要件に照らし、一定の手続きを経て、区域指定を行います。

 

この基礎調査と区域指定の進捗には自治体によって差があり、例えば熊本地震があった熊本県は、2023年度までの区域指定を目標にしています。

 

 

2-2. 「急傾斜地崩壊危険区域」(急傾斜地法)ではないか

 

急傾斜地崩壊危険区域」は、急傾斜地の崩壊が助長・誘発されないように、行為の制限や対策を実施する区域です。

 

土砂災害防止法に基づく区域指定が、土砂災害が発生した場合のいわば”被害地対策”をするべき区域であるのに対し、急傾斜地法に基づく区域指定は、いわば”原因地対策”をするべき区域です。

 

このように、ふたつの法律の指定目的が異なるため、重ねて指定されることがあります。

 

 

2-3. 「土砂災害危険箇所」ではないか

 

土砂災害危険箇所」は、土砂災害防止法に基づく区域指定が現在進行途中にあることをふまえ、土砂災害への備えや警戒避難に役立てるために、土砂災害防止法が施行される前に実施された調査結果を公表しているものです。

 

土砂災害防止法に基づく区域指定が法的措置を受ける区域であるのに対し、「土砂災害危険箇所」の指定箇所への法的制限はありません

 

 

2-4. 自治体の「土砂災害ハザードマップ」に指摘はないか

 

土砂災害ハザードマップ

2-1.~2-3.の指定の状況その他、自治体が把握している土砂災害についての情報を提供する「土砂災害ハザードマップ」が作成されています。

 

何かしら指摘事項がある場合、地図上で示されています。

 

 

 

以上の調査4ステップの入口として
国土交通省ホームページ・各都道府県が公開している土砂災害危険箇所と土砂災害警戒区域

をご活用ください。

 

3.不動産取引・不動産鑑定での土砂災害リスクの取り扱い

 

3-1.土砂災害リスクと不動産取引

 

土砂災害警戒区域」に該当する場合、宅地または建物の売買にあたり宅地建物取引業者はその旨を記載した重要事項説明書交付し、説明を行わなければなりません。

 

土砂災害特別警戒区域」に該当する場合は、宅地建物取引業者は、特別の開発行為において、都道府県知事の許可を受け取った後でなければ宅地の広告、売買契約の締結が行えず、宅地または建物の売買にあたり、特定の開発の許可について重要事項説明を行わなければなりません。

 

3-2.土砂災害リスクと不動産鑑定

 

「土砂災害警戒区域」あるいは「土砂災害特別警戒区域」に該当する場合、不動産鑑定士はその旨と法の内容を不動産鑑定評価書に記載し、評価過程に区域指定の影響を反映します。

 

 

さいごに

土砂災害とはなにか、土砂災害リスクを知る方法、不動産取引・不動産鑑定における土砂災害リスクの取り扱い、ついて書きました。
皆さまの安心につながる情報整理としてお役立ていただけましたら幸いです。

 

 

万一の場合に備え、政府広報オンライン・土砂災害から身を守る3つのポイント も是非ご一読ください。

 

土砂災害リスクが不動産の評価にどう影響してくるかはケースバイケースです。 お問い合わせフォーム または、お電話(03-3626-5160)にてお気軽にご相談ください。