土地(宅地、農地、林地など)

降矢等です。

更地価格を求める手法のうち、収益還元法についてご説明します。

 

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収益還元法は、不動産の収益性に着目した手法で、直接還元法とDCF法があります。
 
直接還元法は、不動産を永久に保有したとして、これから先に不動産から生み出されていくであろう毎年の収益(=収入-費用)を将来の不確実性を加味しつつ現在価値に割戻し、その合計額として不動産価格を求める方法です。
 
 
DCF法は、不動産の永久保有ではなく一定期間保有後に売却するものとして、シミュレーションに基づく一定期間の収益と保有期間終了時の売却価格(復帰価格)を現在価値に割戻し、その合計額として不動産価格を求める方法です。
 
更地価格を求めるための直接還元法は土地残余法と呼ばれ、収益還元法を適用して求められた評価対象土地の価格を、収益価格と言います。
 

不動産価格の評価において、収益還元法は欠かすことのできない重要な手法です。

以前のブログでは、直接還元法で用いる還元利回りについて、数字モデルを用いてご説明しました。
こちらも是非ご一読ください。

【関連記事】

収益還元法・還元利回りが意味するところ
よくわかる!還元利回り ~還元利回りの高い・低いと不動産の優良・不良との関係
よくわかる!還元利回り ~還元利回りの求め方

 

最終的な対象土地の鑑定評価額は、この収益価格と他の手法によって求められた価格とを、評価のために採用した資料の精度や評価過程の説得力の違いによって重みづけして、決定します。

 

収益還元法についてさらに詳しい説明をご希望の方は、どうぞお気軽にご連絡下さい。
(電話:03-3626-5160 土・日・祝日もお受けします。)

FRAコンサルティング代表の降矢等です。

更地価格を求める手法のうち、取引事例比較法についてご説明します。
 
取引事例比較法は、不動産の市場性に着目した手法です。

まず、対象地と用途が同じであるなど、地域としての条件が一致してひとまとまりであると考えられる地域(近隣地域)の範囲を判定します。

そして、その近隣地域内で、標準的だと思われる画地の条件(用途や面積、間口奥行など)を見定め、標準的画地を設定します。
 
 
r8a70f930a6f1aa845fd952bc5ee141_s次に、例えば弊社のある錦糸町のような市街地では、多くの土地取引がなされ、取引市場が形成されていますので、評価対象土地と似ていてライバル関係にあるとみられる土地が実際に取引された事例をできるだけ多く集め、その中から3~5程度の事例を選定します。

選定した取引事例それぞれについての近隣地域(対象地の属する近隣地域に対する類似地域と言えます)を判定し、それぞれの地域の標準的画地を想定します。
 
 

取引事例地とその属する近隣地域(類似地域)の標準的画地の比較

類似地域の標準的画地と近隣地域の標準的画地の比較

近隣地域の標準的画地と評価対象土地の比較

 
と、手順を踏み、その過程で取引に関する特別事情や取引年月日についての補正や修正も加えつつ、取引事例の価格から評価対象地の価格を導いていきます。
 
採用した取引事例の数だけ評価対象地の価格候補が得られますので、最後に、得られた複数の価格候補について類似性や信頼性の面から吟味をして、最終的な取引事例比較法による評価対象地の価格を試算します。

以上により、試算された対象土地の価格は、比準価格と呼ばれます。
 

最終的な対象土地の鑑定評価額は、この比準価格と他の手法によって求められた価格とを、評価のために採用した資料の精度や評価過程の説得力の違いによって重みづけして、決定します。
 
取引事例比較法についてより詳しい説明をご希望の方は、どうぞお気軽にご連絡下さい。
(電話:03-3626-5160 土・日・祝日もお受けします。)

不動産鑑定士・伊藤由美子です。

ひと月ほど前、私の住まいの隣地の方から依頼があって、土地の境界確認に立ち会いました。

 
不動産売買や不動産鑑定の場面で、土地の境界が確定済みであるか否かは重要です。

対象となる土地の正確な面積の把握と、将来的な境界紛争の予防に有用だからです。
 

梅雨の中休みの午後に、関係者立会いのもとで境界を確認。

境界標を設置し、境界確定図を添えた境界確認書を取り交わしました。

 

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境界はこの塀と塀の間です。

 

 

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測量がなされ…

 

 

 

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先方と当方とで確認した境界に、境界標を設置しました。

 

 

 

スムーズに一連の確認と確定が進んだのには、この一帯について国土調査法にもとづく地籍調査が完了していることが大きかったと思います。
 
地籍調査とは、「一筆ごとの土地について、その所有者、地番及び地目を調査し、境界及び面積に関する測量を行い、その結果を地籍図及び地籍簿に取りまとめる事業」で、市区町村などの行政が調査主体です。
 
この地籍調査で得られた情報があり、双方がそれを共有しているため、身構えることなく終始和やかでいられました。
 
今回メリットを実感した地籍調査に関して、2017年12月~2018年2月にかけてブログにまとめております。

是非以下よりご覧くださいませ!
 

【地籍調査ブログシリーズ】

都市部(東京・世田谷)での地籍調査について、3年間を振り返ってお伝えします
登記所にある土地図面の半分は不正確!? 正確にするのが地籍調査です。
地籍調査とは その① ~概要とメリット
地籍調査とは その② ~進捗状況・山村部での地籍調査
地籍調査とは その③ ~都市部での地籍調査
地籍調査とは その④ ~都市部(東京・世田谷)の地籍調査の実際
地籍調査におけるハードル その① ~「面積のズレ」が必ず生じます
地籍調査におけるハードル その② ~「筆界未定」を避けるために
世田谷区での地籍調査の実体験① ~3年間の流れ
世田谷区での地籍調査の実体験② ~地籍調査説明会
世田谷区での地籍調査の実体験③ ~第1回目立会 ~測量作業
世田谷区での地籍調査の実体験④ ~第2回目立会
世田谷区での地籍調査の実体験⑤ ~マンション所有者(土地共有者)の反応
世田谷区での地籍調査の実体験⑥ ~地籍簿・地籍図作成 ~筆界案返答書送付
世田谷区での地籍調査の実体験⑦ ~地籍簿・地籍図の閲覧 ~都・国の承認 ~登記 ~終了通知
地籍調査の成果が反映される書類・図面について(地籍調査の効果)
地籍調査と相続登記 …私たちにできること

墨田区での地籍調査は「街区調査」より

 

 

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不動産鑑定士・伊藤由美子です。

昨今、日本の小売業界全体について、オーバーストアが指摘されるようになっています。
 
オーバーストアとは…

特定地域の消費購買力に対してその地域の小売店舗面積が適正規模を超えている状態をいう。
オーバー・ストアの明確な基準はないが、一般的には小売店舗面積1平方メートル当たりの行政人口が類似都市のそれを大きく上回った状態において使われることが多い。
オーバー・ストアということばが出てきた背景には、大手スーパーなどの急激な店舗展開により、特定都市に集中的に何店もの大型店が出店したり、人口規模の小さな地方都市に大型店が出店したりすることによって、地元の中小小売業の経営に大きな影響を与えるという事態の発生があり、次第に注目されるようになった。

(流通用語辞典より)

 

2b先月、某地方都市の商業地域に出向いた際、このオーバーストアを強く実感しました。
 
市を南北に走る国道沿い1㎞ほどに、大型のスーパーが5店舗ドラッグストアが4店ホームセンターが3店
 
数百メートルごとにロードサイド型チェーンストアが点在して立地し、比較的新しい建物もあるものの、全体としては少々建物に傷みが見られる店舗のほうが多い状況でした。

 

ショッピングモールを形成しているわけではないため、コト消費の要素は少なく、消費者のエリア滞在時間は限定的です。
 
商況の確認を金曜日と土曜日に行ったところ、週末でも各店舗の日中の客数は伸び悩んでいました。

夜の時間帯には家族連れの来店が目につきましたが(工場勤務の方が勤務シフト前後に買物をしているようです)、昼の時間帯の売り上げをカバーするほどではなさそうです。

 

某地域についての厳しい見通しをもって、東京に戻る新幹線の中で日本経済新聞に目を通していると、「日本国内で小売・外食の店舗数が減少・・・店舗増が収益拡大に直結した20世紀型の事業モデルは抜本的な見直しを迫られている」との記事(6/12付朝刊)が目に飛び込みました。
 
某地域にもこの波がいずれ到来するものと思います。

 

人口減少とイーコマース(電子商取引)の伸長が同時進行するなか、商業地についてはそれぞれの土地が所在する地域の現状把握と将来予測を丁寧に行った上での価値判断がますます重要になってきています。

 

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不動産鑑定士・伊藤由美子です。

3月も半ばとなり、東京ではスギ花粉の飛散ピークを迎えています。
花粉症の息子たちに、マスク着用と薬服用の声掛けをする毎日です…^_^;

 

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さて、スギは花粉の多寡も気になりますが、木材としての需給も気に掛けております。

今月初めの日本経済新聞で、木材輸出について驚かされる記事を目にしました。

スギなど国産材の2018年の輸出額が350億円超となり、41年ぶりの高水準となったのだそうです。

 

 
41年ぶりとは…1970年代にまでさかのぼることになります! ちなみに過去のピークは1968年の414億円だそうです。

 
林野庁のホームページ   には、こんな力強い表現が躍っていました。

近年、木材の輸出が増加しています。
平成25年に123億円だった木材の輸出額は、平成30年に351億円となりました。
品目別では、土木資材や梱包用に使用される低価格・低質な丸太が4割、輸出先国別では、中国・韓国・フィリピン・台湾・米国で9割を占めています。
輸出拡大に向け、より付加価値の高い製品輸出への転換と新たな輸出先国の開拓に向けた取組を推進して参ります。

 

 

以前のブログでも触れましたたように、外国産丸太の価格が高止まりしている中、バイオマス発電用などかつては存在しなかった木材需要も生まれ、日本産の木材への需要は外需・内需ともに高まっている模様です。

 
国内林業の復活を応援しつつ、鑑定業務の関係市場である木材市場動向に目配りを続けたいと思います。

 

【関連記事】

丸太価格の上昇が気になります ~山林・林地の不動産鑑定評価もご相談下さい
地籍調査とは その② ~進捗状況・山村部での地籍調査
不動産鑑定評価での困りごと ~山林の「確定」「確認」

 

 
 

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降矢等です。

今年の法改正振り返り、の2回目です。

 

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2018年4月、市街地について大まかな土地利用の方向性を示す「用途地域」に追加がありました。

田園住居地域」(・・・農業の利便の増進を図りつつこれと調和した低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するために定める地域) です。

 

 

これまで12種類だった用途地域は、これから以下の13種類となります。

住居系:第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、  第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域、田園住居地域

商業系:近隣商業地域、商業地域

工業系:準工業地域、工業地域、工業専用地域

 

田園住居地域の創設の背景には、国の政策転換があります。

 

市街化区域内の農地は、社会経済の発展にともなう宅地需要を背景に、長らく「いずれ宅地化すべきもの」として位置付けられてきました。
 
しかし、今や人口減少の時代となり宅地需要は沈静化、農地を宅地に転用する必要性は低下しています。
 

加えて、社会に以下のような変化がみられます。

○食の安全への意識の高まり→地元産の「顔の見える」新鮮な農産物への評価、自ら作物を作りたいというニーズの高まり

○学校教育や農業体験を通じた、農業に対する理解と地域コミュニティ意識の高まり

○農業へ関心を持つリタイア層の増加

○東日本大震災を契機とした防災意識の向上による避難場所等としての農地の役割への期待の高まり

○都市環境の改善や緑のやすらぎ、景観形成に果たす農地の役割への期待の高まり

 
この状況をふまえ、国ははじめて農地を用途地域に位置付け、望ましい市街地像のひとつとして”住宅と農地とが共存するエリア”を新たに示したのです。

 

田園住居地域の創設に至る経緯は、国土交通省の以下資料に詳しく記されています。

『都市緑地法等の一部を改正する法律の施行について』

 

都市農地をテーマとする過去のブログ記事があります。よろしければお読みください。

【関連記事】

 導入30年が近づく生産緑地制度と都市農地

生産緑地面積は23区内2番目・世田谷の都市農地のリアル

 
なお、弊社の地元である墨田区では田園住居地域の指定はありません。
墨田区の用途地域指定の状況はこちら↓のブログでご確認ください。

【関連記事】

墨田区の用途地域は5種類 ~準工業地域、商業地域、近隣商業地域、第一種住居地域、工業地域

 

用途地域全般に関して、詳しいご説明をご希望の場合は、どうぞお気軽に弊社にお電話(03-3626-5160)を!

 

水害

 

不動産鑑定士・降矢等です。

 

前回ブログテーマの土砂災害は、豪雨や地震によって引き起こされることが多いですが、豪雨がもたらす被害としてより広いエリアで懸念されているのは浸水被害です。

 

 

 

ある公的機関の方から、「近時、各地で大雨による被害が報告されていますが、東京東部の海抜ゼロメートル地帯の土地市場価格について、水害リスクをどのように考えたらよいでしょうか」とのご質問をいただきました。
 
私は墨田区・江東区の状況をふまえ、以下のようにお答えしました。

 


 
墨田区や江東区はその東部で荒川及び旧中川に面していますが、両区の水害ハザードマップをみると、荒川等が氾濫した場合、墨田区の北部中央~東部にかけて、また江東区の北東部において、5m未満の浸水の可能性があることが示されています。
 
このような地形的条件による洪水の発生の危険性は、従来より地域のマイナス要因として、その地域の土地価格水準織り込まれています。

 

東京東部の土地が、利便性で同等の他地域より相対的に地価が低めに見られるのには、たとえば地域の街並みの良し悪しという要因の考慮が作用しています。
 
同じように災害発生の危険性も要因として考えられており、これら2つをはじめ複数の地域要因を総合して織り込んだ結果、形成されるのがその地域の価格水準です。
 

近時において墨田区・江東区で大規模水害は起きておらず、水害リスクについてマーケットでの意識レベルがここにきて価格水準を変化させるほど大きく変わった、との印象を現時点では持っておりません。
 

ただ、ご承知のとおり、人々が肌で異常気象を感じる機会は年々増えています。

 
また、東京東部低地帯に位置する江東5区(墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区)は、大規模水害による犠牲者ゼロの実現を目指して「江東5区広域避難推進協議会」を立ち上げ、2018年8月、「江東5区大規模水害ハザードマップ」を公表しました。
 
同ハザードマップの前提は、”未経験の巨大台風が東京に襲来し、豪雨が発生。荒川と江戸川の同時氾濫がおきて5区のほとんどが水没し、人口の9割以上・250万人が浸水被害にあう”というもので、衝撃が広がっています。
 
 
こういった状況を受けて、不動産購入者が水害の危険性より現実的に捉えるようになった場合には、東京東部ゼロメートル地帯の土地価格と、水害が少ないと想定される地域との土地価格水準の開差が拡大向かうかもしれません。

 


 
・・・少々、専門的な書きぶりとなってしまったかと思います。

もし、ご不明な点がおありでしたら、どうぞお問い合わせ(03-3626-5160)ください。
 
 

【ご参考】

江東5区大規模水害ハザードマップ
江東5区大規模水害広域避難計画 リーフレット 

(江東区ホームページより)

不動産鑑定士・降矢等です。

 

夏の始めに「土砂災害の3分類&危険を見分ける4つのステップ。そして危険の取り扱いについて。」とのタイトルで記事を書きましたが、その後、夏~秋にかけて、豪雨や地震といった大きな災害が全国で相次ぎました

 

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東京都内、それも23区内であっても 3種類の土砂災害(がけ崩れ、土石流、地滑り)のうち、がけ崩れ発生するおそれのある場所が数多くあります。

 

今年に入って東京都は新たに数百ヵ所土砂災害(特別)警戒区域を指定しています。

 

 

 

本日は、土砂災害についての前回記事の続編として、土砂災害(特別)警戒区域の指定がなされた場合、それを不動産鑑定評価にどう反映するかについて、評価上のポイントをお示しした上でモデルケースを用いてご説明をいたします。

土砂災害の3分類&危険を見分ける4つのステップ。そして危険の取り扱いについて。」をご一読の上、以下をお読みください。

 

 

1.土砂災害防止法「土砂災害(特別)警戒区域」の指定と不動産鑑定評価

 

まず、不動産鑑定評価での「土砂災害(特別)警戒区域」を含む土地評価について原則的考え方をお話します。

 

1-1. 「土砂災害警戒区域」「土砂災害特別警戒区域」の違い

 

土砂災害防止法』は、土砂災害のおそれのある箇所を明らかにして、住宅などが新しく建てられることを抑制し、警戒や避難の体制を整備するといったソフト対策を推進することを目的として制定された法律です。

 

この法律で規定する「土砂災害警戒区域」(イエローゾーン)は、土砂災害が発生した場合、住民の生命・身体に危害が生ずるおそれがある土地の区域で、災害情報の伝達避難が早くできるように区市町村により整備が図られます。

 

土砂災害特別警戒区域」(レッドゾーン)は、イエローゾーンのうち、建築物に損壊が生じ、住民の生命・身体に著しい危害が生ずるおそれがある土地の区域で、一定の開発行為の制限居室を有する建築物の構造規制が義務づけられます。

 

 

1-2. 土地について「警戒区域」「特別警戒区域」の指定がされていることは”マイナスの個性”か?

 

警戒区域(イエローゾーン)  ・・・”マイナスの個性”ではない

 

「警戒区域」は、土砂災害の発生に備えて避難体制整備が必要な区域、として指定されています。

したがって、もともと急傾斜のがけ地に近い一帯の土地については、この地域的特性を考慮の上で価格が形成され、不動産取引されています。
言いかえると、地域相場に「警戒区域」該当の事情がすでに織り込まれていることになります。

ですから個々の土地の評価の際にあらためて「警戒区域」指定の事実をマイナスの個性として取り上げて反映(減価)することはしません。

 
 

なお、「警戒区域」指定は購入検討者にネガティブな印象を与えるかもしれないので価値のマイナス要因…というご意見もあるかと思います。

しかしこの事実をどの程度ネガティブに捉えるかというのは人それぞれに様々ですので、鑑定評価で減価項目には入れません。

同じネガティブ印象につながり得る事実でも、自殺のあった土地のように明らかに瑕疵ある事情とは区別をします。

 

 

特別警戒区域(レッドゾーン) ・・・”マイナスの個性”となる

 

「特別警戒区域」に指定された土地部分は、土砂災害が発生した場合に、建築物に損壊が生じ、住民の生命・身体に著しい危害が生ずるおそれがある土地の区域、で災害発生時に被害を受ける蓋然性が高いです。

そのため、万が一がけ崩れが発生した場合に土石に耐える建築構造とすることなど、その土地の利用に際して具体的(費用支出を含む)制約が発生します。

よって、「特別警戒区域」の指定はその土地についてマイナスの個性と言え、土地価格について減価の検討が必要となります。

 

 

1-3. 「特別警戒区域」の指定がある土地のマイナスの個性のとらえ方

 

「特別警戒区域」について、発生が予測される土石流等に対して建物が押しつぶされないための具体的な構造基準は、建築基準法に基づく政令で以下のように定められています。

 

①基礎

 ・基礎と一体の控え壁を有する鉄筋コンクリート造の壁

②構造耐力上の主要な部分

 ・崩壊土砂の衝撃を受ける高さ以下にある構造耐力上主要な部分は、鉄筋コンクリート造とすること

③外壁の構造

 ・急傾斜地に面する外壁は,崩壊土砂の衝撃を受ける高さ以下の部分を鉄筋コンクリート造の耐力壁とすること

 ・この場合において,当該外壁に作用する衝撃力の強さに応じ,外壁の厚さや鉄筋の配置を定められたものにすること

④適用の除外

・国土交通大臣が定める方法による構造計算によって崩壊土砂の衝撃に対して安全であることが確かめられた場合

・急傾斜地と建築物の間の位置に鉄筋コンクリート造のへいを設置する場合

・その他国土交通大臣が定める安全上適切な措置を講ずる場合

 
 

「特別警戒区域」内では、上記規定に則り、通常の建築物以上の耐力性ある構造としなければならない分、建築費がよりかかります。

この建築費等の増額支出相当など、指定のない土地に比べたマイナスの個性を金額換算したもの(土地の価値減少分)にあたると考えられます

 
 

ここで注意しなければならないのは、下図のように画地全体に対し、指定を受けた土地がどの程度を占めているかという点です。

図2
 

その状況に応じて合法的な建物の配置や構造が大きく異なってきますので、土地価格の減少の程度も当然に幅が生じます。

たとえば、Aの指定区域のケースでは、指定外の土地が大方を占めています。
となると、建物の配置を工夫すれば門、塀等の構造強化で対応可能な場合があります

一方、Bのように画地の過半が指定区域となっているケースでは、建物自体の構造強化が求められます。
よって建築費が相対的に高くなる分、土地価格により大きな減価が生じます。

 

 

 

2.評価モデルケース:土地の一部が「特別警戒区域」に指定されていた場合の減価率の算定

 

次に、1.で指摘した事項について、過去の評価事例を元にしたモデルケースに数値を入れてご説明します。

 

2-1. ケース設定

23区内にある住宅街の45㎡の更地。

前面道路を隔ててがけ地あり。

土地のうち前面道路と接する2㎡(長さ5m、幅40㎝)は「特別警戒区域」に該当し、その部分以外は「警戒区域」に該当する、前記1.1-3.にあげた図で、Aのようなケース。

「特別警戒区域」の指定がない場合のこの土地価格は5,000万円

 

 

2-2. 法令への対応

本件では、建物自体の構造強化より、前面道路側(がけ地と建物の間)鉄筋コンクリート造のへい(耐力性ある強化塀)の設置が妥当と判断。


 

2-3. 減価率の算定

強化塀の設置の費用は120万円と算定。

120万円(設置費)÷5,000万円(土地価格 )= ▲2.4%(①)

設置する塀により1階部分の日照・通風に影響が生じることとなる。

その分市場性の減退が生じるので、この市場性減価について▲5%(②) と査定。
①と②を掛け合わせ(相乗積)、「特別警戒区域」に指定されたことによる減価率を次のとおり算定。

1 - {(1-0.024)×(1-0.05)} ≒ ▲7.3%

 

2-4. 減価率の妥当性の検証

東京都主税局は固定資産税(土地)の評価において、以下の画地補正率(各土地の状況に応じた補正率)を採用している。

 

付表20「土砂災害特別警戒区域補正率」

土砂災害防止法により土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)に指定された宅地については、同法により特定開発行為の制限、建築物の構造規制等が行われることを考慮し、補正を行うものです。

なお、土砂災害警戒区域(イエローゾーン)は、レッドゾーンにおいて生じる制限等がないため、補正の対象外としています。

図1

 
 

モデルケースの場合、2㎡÷45㎡≒0.04であるから、上記表にあてはめると減価率は0%となるが、これを一つの目安とした上で、費用性と快適性の両面から算定した減価率▲7.3%が対象土地において鑑定評価上は妥当であると検証・確認した。

 

 

さいごに
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土砂災害(特別)警戒区域の指定がある土地について、鑑定評価で用いる具体的手法(減価率の求め方)ついて書きました。

 

ご参考としていただけましたら幸いです。

 
記事内のモデルケースはあくまで一例です。

 

個別土地の土砂災害リスクを反映した価格評価につきましては、お問い合わせフォームまたは、お電話(03-3626-5160)にてお気軽にご相談ください。

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不動産鑑定士・伊藤由美子です。

現金のやりとりなしに決済を行うキャッシュレス

現在日本でのキャッシュレス比率は20%程度だそうです。

 

 

これまで私たちの多くは、日本人としての自国の暮らしにおいてキャッシュレス生活を強く望むことはありませんでした。

 

ATMがあちこちにあって必要なときには簡単に銀行口座から現金が手に入り、治安が良好ゆえ安心して現金の持ち運びができます。

ニセ札に悩まされたり、現金のやり取りではおつりをごまかされるのではないか・・・という心配もしていません。

 

キャッシュレス比率はアメリカ中国だと50%前後とのことですが、これらの国では上記条件が揃っていないがゆえキャッシュレスが進んできたという面があったことでしょう。
日本人は便利と安全をきわめた、誇れる社会を作れていた、といえるかもしれません。

 

しかし・・・いよいよ私たちもキャッシュレス社会到来へ覚悟を決めなければならない時期にきているようです。
政府は現在20%程度であるキャッシュレス比率を、2025年には2倍の40%に引き上げることを目標に掲げています。

 

私たちも一旦海外に出るとキャッシュレスというのはありがたいと思います。

ますますの増加を期待する訪日外国人観光客の消費意欲に水をささないよう、彼らにとって快適なキャッシュレス環境を整えなければなりません。
 
また、キャッシュレスにより削減されるビジネスコストや、購買履歴をデータ化しITを駆使することで新しいビジネスチャンスを生み出すことにも目がむけられています。

 

 

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夏の終わりに富士エリアに行ったのですが、富士急行線河口湖駅では外国人の多さに驚きました。

【関連記事】
別荘が変わった! ステータスシンボルから、避難拠点へ!?

 

富士急行のプレスリリースによれば、月間乗降客数の約半数が外国人という月もあるほどなのだそうです。

 

 

 

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特に、中国人の割合が圧倒的に高く、富士急行は昨年から中国のスマホ決済大手・テンセントと組んで、中長期的に富士山麓エリア全体のキャッシュレス化を推進中とのこと。

 

【ご参考】

観光産業専門のニュースメディア・トラベルボイスに富士急行の取り組みについての詳しい記事があります。

”中国モバイル決済「WeChat Pay」が訪日市場で急拡大、富士急と強力タッグで挑むスマート遊園地から地域のキャッシュレス化まで取材した”
 
 

西に目を向ければ、先月初め、JR九州をはじめとする九州の主要企業が参画し、中国企業のアリババが事務局を務める「九州キャッシュレス観光アイランド推進コンソーシアム」が発足しています。
 
このコンソーシアムの目指すところは、九州全域にキャッシュレス決済インフラを整備し、中国などインバウンド観光客の誘致と域内消費を最大化することです。
 

域内キャッシュレス化の進捗度合が、地域の商業の浮沈にかかわり、地価を動かすようになる… このような目線でもって今後の各地域の動きに注目していきたいと思います。

 

 

余談ですが、今から4年前、アメリカ旅行で驚きのキャッシュレス体験をしました。

サンディエゴの街で、現地でしかできないような体験をしたい(最近の訪日外国人の方と同じくコト消費志向です(*^_^*))と思い、インターネットで見つけた「Sand Castle(砂のおしろ作り)」レッスンを申し込みました。

 

SD 146当日はインストラクターの女性と砂浜で待ち合わせました。

レッスンを受け、終了後にその場でお支払い… 写真のようなお店などない状態です。

当然現金で払うことになると思っていましたが、彼女のスマホからの通信によってクレジットカード支払いができました。

 
 

今は日本でも無店舗状態でカード決済OKとなってきましたね。

 

この記憶からも、1、2年もすれば今までとは全く違う支払い光景が日本に広がっているのかもしれないなぁ、と思います。

 

 

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不動産鑑定士・降矢等です。

このたびの記録的豪雨で被害を受けた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

暑さの中、復旧作業にあたられる方々のご様子に、ただ頭が下がるばかりです。

 

河川の氾濫による浸水や土砂災害で、多くの貴い命が失われてしまいました。

土砂災害とその危険について、私たちがより理解を深めることが重要だと痛切に感じております。

土砂災害について、土砂災害リスクを知る方法、加えて不動産取引・不動産鑑定での土砂災害リスクの取り扱いについて、今日は書いてまいります。

 

なお、以下に掲載した写真・図表は「土砂災害防止法の概要」(国土交通省) を加工して作成しております。

 

 

 1.土砂災害の3分類 :「がけ崩れ」「土石流」「地滑り」

 

国土交通省の調査によれば、全国で、毎年1,000件を超える土砂災害が発生しており、土砂災害が発生するおそれのある区域は約66万区域にのぼると推計されています。

 

土砂災害は、3種類に分類されます。

 

1-1. がけ崩れ

がけ崩れ

 

自然にあるいは人工的につくられた斜面の表面の土砂や岩石が、速いスピードで滑り落ちる現象。
 

突然起きるため、家の近くで起きると逃げ遅れる人が多く出て死者の割合も高くなる。

 

 

 

1-2. 土石流

土石流

山崩れによって生じた土砂や岩石と谷底にたまった土砂や岩石とが川の水と一体となって、速いスピードで流れ下る現象。
 

流れの速さは規模によって異なるが、時速20~40kmで一瞬のうちに人家や畑などを壊滅させてしまう。

 

過去、推定時速が100kmを超えたこともあった。

 

 

1-3. 地滑り

地滑り

 

斜面の一部あるいは全部である土塊が地下水の影響と重力によってゆっくりと斜面下方に移動する現象。
 

一般に移動する土塊の量が多いため、甚大な被害が生じる。また、一度動き出すとこれを完全に停止させることは困難

 

 

 

 

いずれについても長雨集中豪雨地震が発生の重大原因です。

 

 

2.土砂災害の危険を見分けるための4つのステップ

 

土砂災害の危険は、2.1~2.4の4つのステップで見分けてください。
 

2-1. 「土砂災害警戒区域」「土砂災害特別警戒区域」(土砂災害防止法)ではないか

 

 2001年4月土砂災害防止法が施行されました。

1999年6月に、広島市・呉市を中心とした集中豪雨により大規模な土砂災害が発生したことをきっかけに、土砂災害のおそれのある箇所を明らかにして、住宅などが新しく建てられることを抑制し、警戒や避難の体制を整備するといったソフト対策を推進することを目的として制定された法律です。

 

この法律で規定する「土砂災害警戒区域」(イエローゾーン)は、土砂災害が発生した場合、住民の生命・身体に危害が生ずるおそれがある土地の区域であり、災害情報の伝達避難が早くできるように区市町村により整備が図られます。

 

土砂災害特別警戒区域」(レッドゾーン)は、イエローゾーンのうち、建築物に損壊が生じ、住民の生命・身体に著しい危害が生ずるおそれがある土地の区域であり、一定の開発行為の制限居室を有する建築物の構造規制が義務づけられます。

 

 

まず都道府県は基礎調査を行い、調査結果を各区域の指定要件に照らし、一定の手続きを経て、区域指定を行います。

 

この基礎調査と区域指定の進捗には自治体によって差があり、例えば熊本地震があった熊本県は、2023年度までの区域指定を目標にしています。

 

 

2-2. 「急傾斜地崩壊危険区域」(急傾斜地法)ではないか

 

急傾斜地崩壊危険区域」は、急傾斜地の崩壊が助長・誘発されないように、行為の制限や対策を実施する区域です。

 

土砂災害防止法に基づく区域指定が、土砂災害が発生した場合のいわば”被害地対策”をするべき区域であるのに対し、急傾斜地法に基づく区域指定は、いわば”原因地対策”をするべき区域です。

 

このように、ふたつの法律の指定目的が異なるため、重ねて指定されることがあります。

 

 

2-3. 「土砂災害危険箇所」ではないか

 

土砂災害危険箇所」は、土砂災害防止法に基づく区域指定が現在進行途中にあることをふまえ、土砂災害への備えや警戒避難に役立てるために、土砂災害防止法が施行される前に実施された調査結果を公表しているものです。

 

土砂災害防止法に基づく区域指定が法的措置を受ける区域であるのに対し、「土砂災害危険箇所」の指定箇所への法的制限はありません

 

 

2-4. 自治体の「土砂災害ハザードマップ」に指摘はないか

 

土砂災害ハザードマップ

2-1.~2-3.の指定の状況その他、自治体が把握している土砂災害についての情報を提供する「土砂災害ハザードマップ」が作成されています。

 

何かしら指摘事項がある場合、地図上で示されています。

 

 

 

以上の調査4ステップの入口として
国土交通省ホームページ・各都道府県が公開している土砂災害危険箇所と土砂災害警戒区域

をご活用ください。

 

3.不動産取引・不動産鑑定での土砂災害リスクの取り扱い

 

3-1.土砂災害リスクと不動産取引

 

土砂災害警戒区域」に該当する場合、宅地または建物の売買にあたり宅地建物取引業者はその旨を記載した重要事項説明書交付し、説明を行わなければなりません。

 

土砂災害特別警戒区域」に該当する場合は、宅地建物取引業者は、特別の開発行為において、都道府県知事の許可を受け取った後でなければ宅地の広告、売買契約の締結が行えず、宅地または建物の売買にあたり、特定の開発の許可について重要事項説明を行わなければなりません。

 

3-2.土砂災害リスクと不動産鑑定

 

「土砂災害警戒区域」あるいは「土砂災害特別警戒区域」に該当する場合、不動産鑑定士はその旨と法の内容を不動産鑑定評価書に記載し、評価過程に区域指定の影響を反映します。

 

 

さいごに

土砂災害とはなにか、土砂災害リスクを知る方法、不動産取引・不動産鑑定における土砂災害リスクの取り扱い、ついて書きました。
皆さまの安心につながる情報整理としてお役立ていただけましたら幸いです。

 

 

万一の場合に備え、政府広報オンライン・土砂災害から身を守る3つのポイント も是非ご一読ください。

 

土砂災害リスクが不動産の評価にどう影響してくるかはケースバイケースです。 お問い合わせフォーム または、お電話(03-3626-5160)にてお気軽にご相談ください。